研究内容 Researches

計画研究班 A02-4

マウス核移植技術の開発による正常クローン胚・胎盤の構築

代表者 / Project Leader

私たちの研究室では、さまざまな発生工学・生殖工学技術を用いて、発生メカニズムの解明や新たな幹細胞・動物モデルの開発を行なっています。本領域では、これらの技術のうちの一つ、マウスの体細胞核移植クローン技術を用いることにより、完全な全能性に必須のエピゲノム条件を明らかにします。生殖細胞ゲノムは受精を経て全能性を獲得します。この背景には、長い年月をかけた生殖細胞ゲノムの変遷がありますが、体細胞核移植クローン技術は、数時間で体細胞ゲノムに全能性を付与してしまいます。このため、核移植クローン後にさまざまなエピゲノム異常が生じます。本研究では、これらの異常を同定し、改善することによって、逆にそのエピゲノムがどのように全能性に関わっているかを明らかにします。
これまでに、Xist の異所性発現の改善とH3K9me3の除去により、クローン胚の正常化と出生率の向上を明らかにしてきました。本領域では、次のターゲットとして、クローン胚あるいは胎盤で生じる父方刷込みIG-DMR や母方刷込みヒストンメチル化依存のインプリントの異常を正常化する予定です。他にも知られている非刷込み遺伝子の発現異常も改善する予定です。これらの情報が集積することにより、全能性の条件が明らかにされると期待されます。また、佐々木班との共同研究によって、マウスで培ったノウハウをマーモセットのクローン技術の開発にも生かす予定です。

図の説明:マウス体細胞クローン技術は、すでに2つの大きなブレークスルーを達成した(灰色枠)。残された①ゲノム刷込みの異常および②非ゲノム刷込みの異常は特定されており、その正常化によって受精卵に近いクローン胚を作成できると期待される(太枠囲みは、異常の改善方法)。

小倉 淳郎
Atsuo Ogura

理化学研究所 バイオリソース研究センター 遺伝工学基盤技術室
室長
RIKEN
Head

http://www.riken.jp/research/labs/brc/bioresour_eng/

もう30年近く前に、恩師のハワイ大学柳町先生の元でこの分野に入りました。歳月は過ぎ、この全能性領域が始まると同時に、私も還暦を迎える年になってしまいました。しかし、その柳町先生がまだ現役でご活躍中です! この若輩の私が年とったなどとは言っていられません。平日は頭を働かせ、土日は体を動かして、少しでもみなさんのお役に立てるようにベストを尽くしていきたいと思います。あ、自分でも少し実験をすることがありますので、いつかは first author論文を書く野望ももっています。
まだまだ全能性は宝の山です。世界を驚かすような仕事に期待をしています!

分担者 / Co-Project Leader

体細胞核移植によって得られたクローン胚の多くは、エピジェネティクス異常により発生を停止したり、生後の異常表現型を呈したりします。故に、クローン胚を詳細に解析し、得られた結果を受精卵のそれと比較することで、全能性獲得のためのエピゲノム情報を明らかにすることができます。このとき、クローン胚のエピゲノム解析を成立させるためには、クローン胚の染色体構成の正常性が保証されていなければなりません。本課題において、私は、これまでに培ってきた配偶子・初期胚における染色体解析の経験を生かして、クローン胚など特殊胚の染色体解析を行い、その正常性を判定していきます。

日野 敏昭
Toshiaki Hino

旭川医科大学 医学部 生物学教室
助教
Asahikawa Medical University
Assistant Professor

http://www.asahikawa-med.ac.jp/dept/ge/biology/

もともとは三菱化学生命研のテクニシャンとして生殖・発生の研究分野に足を踏み入れたのですが、研究所の閉鎖にともなって旭川医大に移り、そこから研究者としてのキャリアを本格的にスタートさせました。年齢的には中堅ですけれども、研究者としてはまだ若手と思っています。この領域ではいろいろな事を吸収しつつ、自分に課された使命に全力で取り組み、領域の発展に貢献していきたいです!