二倍体の生物である脊椎動物の卵が単為発生刺激を受けて、一倍体(半数体)の胚発生が開始されることがあるが、胚は途中で発生停止する。特に哺乳類の一倍体胚は6-7回分裂する間に多くが発生停止してしまうが、その理由はわかっていない。本研究では、マウス一倍体胚は、細胞や核の大きさは二倍体胚と変わらないがゲノム量が半減しているため、核内のクロマチン密度が二倍体胚の半分であることに着目した。「核内クロマチン密度の半減が引き起こす核膜―クロマチン結合の異常が、胚発生に必要な遺伝子発現を阻害する」という仮説の検証を通し、全能性を獲得する場として機能するために必要な核の構造を明らかにすることを目指す。
東京大学総合文化研究科広域科学専攻
教授
Tokyo University
Professor
マウスの受精・卵割過程を細胞生物学的に観る面白さにハマって12年経ちました。受精卵の卵割と体細胞の分裂、哺乳類とそれ以外の脊椎動物の卵割期の違いに興味をもっています。
初期胚発生では、母性因子に依存した遺伝子発現プログラムから、胚性ゲノムによって駆動される遺伝子発現プログラムへの移行という大規模な生命機能の転換を経る。本研究ではこれまで見過ごされてきた全能性消失時の背景に潜むゲノム構造の動的変化に着目し、初期胚発生時の胚性ゲノム活性化に果たす機能を包括的に理解することを目指す。
東京大学先端定量生命科学研究所
准教授
Tokyo University, Institute for Quantitative Biosciences
Associate Professor
北海道上川郡生まれ。趣味はベランダ園芸。自分にしかできないサイエンスをストイックに追求したい。
植物は茎や葉を切断しても、その切断面から新しく根や茎を伸ばし、新たな個体を再生できる。植物が持つ高い再生能力を活かし、挿し木など古くから園芸・農業に利用されてきた。植物細胞は分化した後も全能性を発揮でき、それにより高い再生能力をもつことが知られている。そのため、全能性を発揮するメカニズムが盛んに研究されてきたが、ほとんどは体細胞のリプログラミングに着目した研究であった。しかし、体細胞のリプログラミング過程で生じるカルスや不定胚の多くは、細胞塊の状態でしか解析できず、1細胞レベルで全能性に関わる遺伝子発現変化を捉えることは困難であった。近年、我々はシロイヌナズナにおいて、受精卵の分裂過程(受精胚発生)をin vitroで詳細に観察・解析できる系を確立し、フェムト秒パルスレーザーで胚始原細胞である頂端細胞(胚体細胞)を破壊したときに、隣接していた胚体外細胞である胚柄細胞が細胞運命転換をおこして、再び胚を形成する驚くべき再生能力を明らかにした。
本課題の目的は、我々が確立したシロイヌナズナin vitro胚発生系を利用し、植物受精胚の「全能性プログラム」制御に関わる因子を明らかにすることである。本課題では、[1]植物ホルモンであるオーキシンが全能性獲得に必要であるか、[2]全能性消失はいつ、どのように起こるのかという二点に着目して研究を行い、計画研究班の哺乳動物研究との連携により、生命の根幹をなす仕組みに潜む普遍的なメカニズムの発見を目指す。
名古屋大学
特任准教授
Nagoya University
Associate Professor
https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/en/members/group/d-kurihara.php
植物内部で起こっている現象を詳細に解析するために、顕微鏡下においてin vitroで生命現象を再現し、細胞や遺伝子発現を光操作することで、生命現象を担っているメカニズムを明らかにすべく、ライブイメージング技術・光操作技術の基盤を構築することをおこなっている。近年は植物の透明化技術も開発し、深部イメージングもおこなっているので、多くの人に植物の美しさを見ていただきたい。
霊長類において、げっ歯類と同様に胎盤組織が胚盤胞の栄養膜細胞から発生する一方、胎児組織は内部細胞塊から発生することが推測されているものの、技術的困難さからこれまで実験的検証がされてきませんでした。本課題では、1.非ヒト霊長類における胎盤の起源を細胞標識実験によってin vivoで実証する、2.内部細胞塊からの胎盤発生の分子機序を明らかにすることを目標とします。
滋賀医科大学動物生命科学研究センター、幹細胞・ヒト疾患モデル研究分野
教授
Shiga University of Medical Science
Professor
これまで30年近くマウスを用いて発生研究を行ってきましたが、7年前に非ヒト霊長類の研究に参入し、げっ歯類で見出された教科書的な原理が霊長類には当てはまらないところもあるのではないかと考え、研究をしております。
ヒストンH3の9番目リジン (H3K9) のメチル化は転写抑制のエピジェネティックマークである。H3K9メチル化は修飾を付加する酵素 (Writer)と修飾を除去する酵素 (Eraser)によって可逆的に制御され、これらの拮抗した活性が修飾の量的な調整の鍵となる。本課題では、卵と初期胚の発生におけるH3K9メチル化Eraserに注目し、その機能を明らかにする。本研究により、全能性プログラムに資するH3K9メチル化の制御機構を明らかしたい。
大阪大学 生命機能研究科 エピゲノムダイナミクス研究室
准教授
Osaka University
Associate Professor
これまでマウス2細胞期胚の割球は等価であり、ともに全能性をもつと考えられてきました。しかし近年発展著しい1細胞RNAシーケンスなどの解析により、この2割球は必ずしも等価ではない可能性が示唆されています。私はこれまでの研究から、2細胞期の割球は環境依存的に競合しあうことを新たに見出しました。本研究課題では、そのメカニズムと生理的意義を解明することを目指します。
大阪大学 生命機能研究科 生命機能専攻
准教授
Osaka University
Associate Professor
高校生の時、生物図説に載っていたカエルの卵割や原腸陥入を見て、将来発生学の研究をやると決めました。東工大の卒研配属でゲノムインプリンティングの面白さに衝撃をうけて以降、(鉄道会社に就職した2年間を除き)阪大・基生研などで一貫して哺乳類の個体発生に関する研究を行ってきました。最近はゲノム編集とモザイク胚を組み合わせて新しい生命現象の発見に挑戦しています。
受精などの刺激により、卵は活性化 (賦活化) されると、全能性を獲得し発生を開始する。全能性獲得のためには、卵内の遺伝子発現が、それまでの卵母細胞として分化した状態から、未分化の発現パターンに大きく変化しなければならない。この卵賦活化の時期に、遺伝子発現パターンの変化をもたらす、重要な制御のひとつが、母性mRNAの翻訳調節である。そこで、ショウジョウバエを用いて、卵賦活化シグナルがいかに母性mRNA翻訳調節をもたらすかを明らかにする。それにより、全能性獲得プログラムの理解を目指す。
大阪大学 大学院生命機能研究科 染色体生物学研究室
助教
Osaka University
Assistant Professor
受精による卵活性化は、受精卵の全能性獲得や、遺伝情報を次世代に繋ぐための染色体分配・細胞分裂の開始など、様々なイベントを引き起こします。これらの現象を、これまでにヒトデ卵、ショウジョウバエ卵、脊椎動物培養細胞などを用いて研究してきました。全能性の研究分野のさらなる活性化に貢献できるよう頑張りたいです。
全能性の獲得には、様々なエピゲノム因子が関わると考えられますが、その全貌は明らかとなっていません。このような全能性因子の解析のためには、どの因子が協調して機能しているのかを分類するための同時性を担保した解析手法が必須です。そこで、本研究では同時性を担保するクロマチン構造解析と転写産物を同時に取得する技術の開発を目指します。開発された技術は領域内での技術供与を行います。
※学術変革領域研究A採択により令和3年度途中に廃止
九州大学 生体防御医学研究所 附属トランスオミクス医学研究センター
助教
Kyushu University
Assistant Professor
ポスドク時代から始めたヒストンバリアントの研究からエピジェネティクスの奥深さを知り、研究を続けています。この領域では、オミクス解析の立場から、生殖・発生の謎に迫れるよう貢献していきたいと思います。
哺乳類胚における全能性とは、胎盤を含む全ての体を構成する細胞に分化しうる能力であり、受精直後の受精卵のみが有する。割球を分割して発生させる実験より、マウス4細胞期の受精卵は1つの割球ですでに分子レベルの全能性の不均一性が生じており、すでに全能性の消失が開始していることが報告されている。しかし、4細胞期の不均一な全能性の生物学的意義と不均一性が生み出されるメカニズムは、4細胞期胚の各割球の分化状態を明確に区別するマーカーがなかったため、不明であった。本研究では、マウス胚における最初期の細胞分化、すなわち全能性消失機構の分子メカニズムを解明することを目的とする。
徳島大学 先端酵素学研究所
准教授
Tokushima University
Associate Professor
https://researchmap.jp/takaoka.katsuyoshi
化学から「胚の形づくり」に魅せられ生物学の世界へ飛び込んで15年。興味は一貫して変わらないものの、マウス胚の体軸形成の研究を続けるうちに着床前まで遡ってきました。
趣味も一貫して野球観戦。よろしくお願いします。
これまで、成体の精子幹細胞は、エピゲノムの変化の制御により、幹細胞であり続けたり、幹細胞活性を喪失して分化をスタートさせたりしているのではないか、と考え、研究を行ってきました。これまでの研究で、ヒストンメチル化酵素が精子幹細胞の時期に書き込むヒストン修飾は、その場で使われる遺伝子ばかりでなく、分化が進んだ精子細胞の段階や、受精後の初期発生に必要とされる遺伝子群に、精子幹細胞の時期に予め入れられ、発現準備状態を作っている(Priming)という可能性を見出しました。本研究班では、受精後の初期発生に必要とされる遺伝子群を、精子幹細胞の段階でPrimingする必要性が本当にあるのか、実際に検証したいと考えています。
横浜市立大学医学研究科微細形態学
教授
Yokohama City University
Professor
http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~finemorp/index.html
横浜市大に赴任して10数年が経ちました。横浜とは言いながら、横須賀市との境にあります。大学関連の宣伝ポスターに使われる「みなとみらい」の観覧車は見えませんが、代わりに、八景島シーパラダイスの観覧車が見えます。個人的には大学の裏が海なので気に入っております。
初期の着床前胚は、胎盤の細胞を含む全ての細胞へと分化できる「全能性」を有している。一方、ES細胞およびiPS細胞は、体を構成する全ての細胞に分化できるが、胎盤の細胞には分化できない「多能性」細胞である。しかし、ES細胞には低率であるが、全能性を有する亜集団が存在することを示唆する報告がなされている。本研究では、申請者らが全能性の観点から解析してきた着床前胚において特異的に発現する遺伝子を手がかりに、ES細胞に含まれる“真の全能性細胞”を同定・可視化することを目的とする。また、全能性を保持したまま増殖させることが可能な“全能性幹細胞”の樹立を行い、全能性の分子基盤を解明することを目指す。
長浜バイオ大学 バイオサイエンス学部 アニマルバイオサイエンス学科
エピジェネティック制御学研究室
教授
Nagahama Institute of Bio-Science and Technology
Professor
http://b-lab.nagahama-i-bio.ac.jp/?page_id=82
大阪大学大学院薬学研究科で学位(薬学)を取得後、大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科の仲野徹教授の元で9年間修業し、長浜バイオ大学で独立、2017年11月より現職。現在は、子供の成長、金魚の飼育、シロクマの観察(動物園)に興味を持っています。
ES細胞の培養過程において、2細胞期胚と性質が類似した2細胞様細胞が出現することが報告されています。2細胞様細胞の出現は転写因子DUXに完全に依存しているのに対し、in vivoではDUX非依存的な経路が全能性を制御していることが示されています。本研究提案では、(1) DUX非依存的な2細胞様細胞出現機構の解明、(2)DUXを持たないイベリアトゲイモリの胚性ゲノム活性化機構の解明、この2つ研究課題を進め、最終的にはこれらの知見を統合し、マウス初期胚におけるDUX非依存的な胚性ゲノム活性化機構の解明を目指します。
関西学院大学 理工学部
教授
Kwansei Gukin University
Professor
https://seki-lab.wixsite.com/seki-lab
鹿児島県奄美大島生まれ。昔はバスケットボールが趣味でしたが怪我が続き引退。今は子育てに明け暮れる毎日です。博士課程の時に全能性獲得機構の解明を目指し、始原生殖細胞のエピゲノム解析をスタートしました。「誰もやらないけど、面白い研究」を目指します。
受精卵は精子から形成される雄性前核、卵子から形成される雌性前核と呼ばれる2つの大きな核を形成し全能性を獲得していく。多くの哺乳類で、雄性前核の方が雌性前核よりも大きく異なったヒストン修飾状態を持つことが知られている。しかしながら、雌雄前核のサイズの違いを生み出す要因や、その生物学的意味はほとんど分かっていない。そこで、受精卵における前核サイズの雌雄差が、異なったヒストン修飾状態の核を同一細胞内で制御し全能性を獲得するために寄与しているのではないかとう仮説を検証し、その詳細なメカニズムの解明を目指す。
神戸大学大学院 農学研究科 生殖生物学研究室
助教
Kobe University
Assistant Professor
http://www.ans.kobe-u.ac.jp/kenkyuuka/sigen/seishoku.html
大学4回生で研究室に配属されたから、道具はマイクロマニピュレーター、材料は卵母細胞と初期胚で研究を継続しております。ユニークで泥臭い研究が好きです。色んな技術で領域に貢献できるよう頑張ります。
近年のイメージング解析により、動物初期胚の細胞の全能性は不安定で揺らぎやすく、野生型の胚においてさえ「遺伝子発現やシグナル伝達に異常を持つ全能性が低下した不良細胞」が頻繁に生じることが明らかにされた。その一方で、動物胚が不良細胞を感知して細胞死を誘導して排除することで胚細胞の全能性を保証することも明らかになりつつある。しかしながら、動物胚に全能性が揺らいだ不良細胞が生じる原因や不良細胞を排除する仕組みは不明である。そこで本研究では、小型魚類イメージング技術とオミクス解析技術を駆使して、動物胚に全能性の揺らぎが生じるメカニズムや、全能性が揺らいだ不良細胞を感知・排除するシステムの分子基盤の解明を目指す。
※学術変革領域研究A採択により令和3年度途中に廃止
大阪大学 微生物病研究所 生体統御分野
教授
Osaka University
Professor
https://ishitani-lab.biken.osaka-u.ac.jp
学部4年生の研究対象だった酵素がたまたま初期胚発生に関与したことをきっかけに発生研究に飛び込み、以来、多様なモデル生物(線虫、カエル、魚類など)を用いて胚と格闘して参りました。現在は、イメージングを起点として胚発生を支える未知システムの探索、解析に取り組んでおります。 本領域の皆様との交流を大変楽しみにしておりますし、交流からワクワクするサイエンスを是非生み出していきたいです!
未受精卵子は分厚い卵丘細胞層と透明帯、豊富な細胞質と強固なヘテロクロマチン状態によって厳重に保護され受精後の発生に備えている。私は未受精卵子が体内で容易にかつ瞬時に受精後の発生能を失い、ほとんどの胚が流産する未知の現象を発見した。未受精卵子に内在する全能性保証機構の脆さに焦点を当て、それを守る方法の開発に繋げる。
自治医科大学医学部先端医療技術開発センター
教授
Jichi Medical University
Professor
https://www.jichi.ac.jp/laboratory/development/animal/index.html
私は学生時代にはマウスを、理化学研究所ではウサギを、宮崎大ではアマミトゲネズミを、京大ではラットを、そして現在は自治医科大学でブタを扱う研究に携わっています。自治医科大学は栃木県下野(しもつけ)市にあります。下野市の特産はかんぴょう。本領域で私は太巻きのかんぴょうのように良い味が出せるよう頑張ります。