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久保班の論文がNat Commun. に掲載されました

2024.04.19

先日のMolecular Cell誌に引き続き、久保班の論文がNature Communications誌に掲載されました。生殖細胞におけるDNAメチル化研究を長年にわたって牽引されてきた佐々木裕之先生の研究室でのお仕事です。

マウス生殖細胞におけるDNAメチル化の確立には、DNAメチル基転移酵素であるDNMT3AとDNMT3Lが必要であることが分かっています。DNMT3Lはメチル基転移活性を持ちませんが、DNMT3Aとヘテロ4量体を形成してDNAメチル化の確立に寄与します。生殖細胞におけるDNAメチルはゲノムインプリンティングや精子形成に必須であるため、DNMT3A/3Lがゲノムのどの領域にリクルートされてメチル基転移活性を発揮するのかは非常に重要な問題です。

ゲノム上でのDNMT3A/3Lの局在は、ヒストンの修飾状態に大きく影響されます。DNMT3AはH3K36me2/3、H2AK119ub、H3K4me0(非メチル化H3K4)を認識することが分かっています。また、DNMT3LもH3K4me0を認識することが報告されています。DNMT3Aと3Lは共にADDドメインを介してH3K4me0を認識しますが、DNMT3Aと3LのADDドメインが協調的に働くのかどうかや、機能的な違いがあるのか、また精子と卵子でそれらの働きに違いがあるのかなどについては不明でした。

本研究で久保さんらは、DNMT3LのADDドメインに変異を持つマウス(Dnmt3LADD)を作製しました。さらに、以前佐々木研で作製されたDNMT3AのADDドメインに変異を持つマウス(Dnmt3aADD)と掛け合わせることで、DNMT3Aと3LのADDドメインの関係性を解析しました。主な結果は以下の通りです。

  1. DNMT3Aと3LのADDドメインに変異を持つダブルホモ変異マウス[Dnmt3aADD/ADD, Dnmt3LADD/ADD]は雄雌共に不妊(WTとの掛け合わせで産仔が得られない)
  2. [Dnmt3LADD/ADD]、[Dnmt3aADD/ADD]、[Dnmt3aADD/ADD, Dnmt3LADD/ADD]マウス、いずれの変異型fully grown oocytes (FGOs)でDNMT3Aと3Lの局在が異常
  3. FGOs、精子いずれもCGサイトのメチル化率は、WT>[Dnmt3LADD/ADD]> [Dnmt3aADD/ADD]> [Dnmt3aADD/ADD, Dnmt3LADD/ADD]≒[Dnmt3a KO] ≒[Dnmt3L KO]の順で低下傾向だが、その低下の程度はFGOs>精子で異なる
  4. [Dnmt3aADD/ADD, Dnmt3LADD/ADD]の雌とWTの雄を掛け合わせて得られた胚は、インプリンティングの異常を示し胎生致死となる
  5. [Dnmt3aADD/ADD] 、[Dnmt3LADD/ADD]マウスのFGOsではnon-CGサイト(CA, CT, or CC)のメチル化がゲノムワイドに減少するが、[Dnmt3aADD/ADD, Dnmt3LADD/ADD]マウスでは一部の領域でnon-CGメチル化の上昇がFGOsと精子の両方で観察される(原因は不明)

以上の解析から、DNMT3Aと3LのADDドメインは、生殖細胞におけるDNAメチル化確立おいて、異なる役割を持ちつつも複合的に働くことが明らかとなりました。この論文の一番の驚きは、ダブルホモ変異マウス[Dnmt3aADD/ADD, Dnmt3LADD/ADD]のFGOsのDNAメチル化レベルが、Dnmt3a KOやDnmt3L KOと同レベルにまで低下する点です(上記の結果3)。ダブルホモKOマウスではDNMT3Aのメチル基転移活性はもとより、H3K36me2/3への結合活性も残っているはずですが、ほぼ完全にDNAメチル化が失われてしまいます。この理由については、様々な可能性について、論文中で丁寧なディスカッションがなされています。また、この論文では膨大な数のマウス(Fig. 1に597匹のgenotyping結果!)を解析していますが、データがとてもうまく整理されているため大変読み易く、お手本のような論文だと思います。

「質問」
1.    ADDに変異を持つDNMT3Lには、DNMT3Aのメチル基転移活性の制御において、どのような機能が残っていると考えられますか? 

[Dnmt3LADD/ADD]の精子、卵子いずれも、そのDNAメチル化率の低下はmoderateでした。一方でDNMT3Lのノックアウトで、DNAメチル化がほとんど消失することを考えると、3LのADDドメイン機能がなくても、DNMT3Aとしては3Lと4量体を形成すること自体が、生殖細胞でそのDNAメチル化活性を発揮する重要な要素だと考えられます。

2.    DNMT3Aの変異は白血病などのヒト疾患に関与していますが、今回作製したマウスを疾患モデルとして使用できる可能性はあるのでしょうか?

今回は血液細胞までは解析していませんが、実はDNMT3AのADD変異マウス([Dnmt3aADD/ADD]と[Dnmt3aADD/ADD, Dnmt3LADD/ADD])の成長は、野生型と比べてやや体重が低いですが(Fig. 1)、その他に変異型マウスは動きがやや鈍い傾向があり、生殖細胞以外の特定の体細胞にも影響がありそうでした。そうした様々な細胞種の解析も今後のテーマだと思います。

3.    久保さんの論文を含む最近の研究で、ヒストン修飾とDNMT3との関係性についてはかなり整理されてきたのではないかと思います。DNMT3が特定の領域にどのようにしてリクルートされるのかという問題は、大枠では解決したと考えてよいでしょうか?もしくは、まだBig questionが残っているのでしょうか?

ひとつは岡江さんもご指摘されているように、PWWPドメインのH3K36me2/3への結合活性が残っているはずなのに、DNAメチル化が付加されないという点です。それには、質問1の4量体形成とも関連しますが、ADD-H3K4me0結合あり・なしでのタンパク構造の変化が関係している可能性が考えられますので、そうした構造解析も新しい知見をもたらすと思います。また精子と卵子で異なるDNAメチル化変化がみられましたが、これは精子形成において、その他のDNMT3ファミリーの存在、つまりDNMT3B、DNMT3Cの影響が大きいと考えています。こうしたファミリー同士で、リクルートされるゲノム領域がオーバーラップしていたり、そうでなかったり、その機序や使い分けについて、まだ不明な点が多くありそうです。
 

(熊本大学・岡江 寛明)
(回答:大阪大学・久保 直樹)

Combined and differential roles of ADD domains of DNMT3A and DNMT3L on DNA methylation landscapes in mouse germ cells
#Kubo N, Uehara R, Uemura S, Ohishi H, Shirane K, #Sasaki H.
Nat Commun. 2024 Apr 16;15(1):3266. doi: 10.1038/s41467-024-47699-2.