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石内班の論文がNat Commun.に掲載されました

2022.08.08

石内班から、マウス卵子におけるde novo DNAメチル化のメカニズムに迫った論文がNature Communicationsに掲載されました!
 マウス卵子の成長過程で生じるde novo DNAメチル化は胚発生に必須であり、DNAメチル化酵素DNMT3Aにより付加されます。これまで卵子においては、主にGene body上ではH3K36me3が集積しており、DNMT3A がH3K36me3を認識することでDNAメチル化が高度に付加されることが明らかとなっていました(Xu et al, Nat Genet 2019)。しかし、その他多くのゲノム領域でもDNAメチル化は存在しており、それらの制御機構は依然不明でした。一方で、体細胞ではH3K36me2がDNMT3AをリクルートしDNAメチル化を促進することが明らかとなり(Weinberg et al, Nature 2019)、石内さんらは卵子においてH3K36me2がDNAメチル化の確立に如何に寄与するのか、H3K36me3の関与も含めて詳細に解析し報告しています。
 まず、卵子におけるH3K36me2 の分布を調べたところ、X染色体へ広範囲かつ高度に集積しつつも、常染色体にも広く分布することが観察されました。そこで次に卵子特異的にH3K36me2を低下させるため、H3.3K36M(K36M変異をもつヒストンH3.3)を条件的に発現できるノックインマウスを利用しています。ちなみに、石内さんらは過去にマウスの組織でH3.3K36Mを発現すると、H3K36me2が選択的に減少することを報告しています(Abe et al, Epigenetics 2021)。H3.3K36Mを卵子成長過程で発現させた後にde novo DNAメチル化への影響を調べたところ、中程度にメチル化をうける領域でのDNAメチル化が選択的に低下しました。興味深いことに、中程度メチル化領域が例外的に高頻度で存在するというX染色体に特有のDNAメチル化パターンは、H3K36me2の消失により常染色体で見られるパターンへと切り替わりました。このような卵子を持つ雌マウスは不妊であり、野生型の雄マウスとの交配で得られる胚は着床前後で致死となることがわかりました。さらに石内さんらは、本研究の後半でH3K36me3を施すヒストン修飾酵素であるSetd2もKOすることで、H3K36me2だけでなくH3K36me3も同時に低下させる実験を行っています。すると、ほとんどのde novo DNA メチル化が起こらず、Dnmt3a KO卵子と同様のレベルまでDNAメチル化が消失することを発見しました。したがって、この2 つのヒストン修飾は、マウス卵子においてDNA メチル化を誘導するのに不可欠なプラットフォームを形成することが示されました。今回の研究は、卵子のDNAメチル化修飾がどのように確立されるのか、その仕組みの重要な一端を明らかにするものです。石内さんにおいては、卵子、初期胚などのエピゲノム制御の様々な重要な研究成果を、今後も期待しています!

(九大生医研・久保直樹)
 

以下、質問です。
1. 卵子ではH3K36me2がX染色体に強く集積していることに興味深いですね。他の組織でもこのような特徴は見られますか?また、どのような機序が考えられますか?

→H3K36me2がX染色体に多く分布しているのは他の体細胞では見られていない特徴です。論文中でも示していますが、卵子のX染色体は核膜近傍に局在しています。核ラミナとの相互作用はクロマチンアクセシビリティやクロマチン-タンパク質相互作用へ影響しうるため、X染色体の空間配置がH3K36me2の高度な集積の一因になっているのではないかと考えています。これを検証するにはX染色体の配置を変化させる実験が必要になってきます。

2. 近年、体細胞においてもH3K36me2やH3K36me3がDNAメチル化に必要であることが示されていますが、卵子ではそれらの報告と比べてどのような違いがありますか?

→一般的な培養細胞を用いて、これらのヒストン修飾がDNAメチル化に大事であるということが報告されました。しかしながら、培養細胞でDNAメチル化に変化があった場合、de novo DNAメチル化以外に細胞分裂による受動的脱メチル化やDNMT1による維持メチル化の変化といった様々な要因を考慮する必要があります。一方、卵子の場合はこれらを考慮する必要がなく、de novo DNAメチル化のみを解析することができます。さらに卵子ではde novo DNAメチル化酵素のDNMT3AとDNMT3BのうちDNMT3Aのみが機能的であり、DNMT3AによるDNAメチル化のみに絞ることが可能です。これらのことを考慮すると、培養細胞に比べ一見アクセスしづらい卵子においては、DNAメチル化の制御は実はすごくシンプルで、結果の解釈が容易です。卵子を用いたことで、DNMT3AによるDNAメチル化にはこの2つのヒストン修飾が必須であるという明確な結果を得るに至りました。培養細胞でH3K36me2とH3K36me3を同時になくした場合にDNAメチル化がどうなるのかは興味がありますが、私の知る限りではまだ報告がないと思います。

3. H3K36me2の生理的な機能について質問です。H3K36me2のレベルが低下した卵子は着床前後の時期に胎生致死を示しますが、H3K36me2は発生においてどのような役割を果たしているのでしょうか?

→卵子でH3K36me2のレベルを低下させても、卵子や2細胞期胚では遺伝子発現プロファイルがほとんど変化しませんでした。しかし、卵子のH3K27me3のレベルが上昇するなどエピジェネティックな変化が見られました。他の研究グループの報告によると、野生型マウスでは「着床前後に」H3K36me2のレベルが下がり、そこにH3K27me3やH2AK119ubといった抑制性修飾が入るようです(Huo et al, Mol Cell 2022)。卵子や着床前胚の段階でH3K36me2レベルが低下すると、その領域の遺伝子が本来より早い時期にPolycombで抑制されてしまうことでその後の発生に何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。また、着床直後にはエピブラストでde novo DNAメチル化が生じる必要がありますが、このプロセスも卵子や着床前胚の段階でH3K36me2が消失してしまうことで(Polycombがやってくることで)影響を受けている可能性も考えられます。これらについては全く手つかずの状態なのでさらなる研究が必要です。


Histone H3K36me2 and H3K36me3 form a chromatin platform essential for DNMT3A-dependent DNA methylation in mouse oocytes.
Yano S, #Ishiuchi T, Abe S, Namekawa S, Huang G, Ogawa Y & #Sasaki H. 
Nat Commun 13, 4440 (2022). https://doi.org/10.1038/s41467-022-32141-2.