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小倉班の論文がEMBO Rep.に掲載されました

2022.05.23

小倉班の越後貫さんの論文がEMBO Reportsに掲載されました。本領域の小倉班分担者日野さんと公募班京極(筆者)との共同研究です。
顕微授精には一般的に2回の減数分裂を完了した半数体の精子が用いられます。近年、ヒトにおいても精子のみならず、未成熟ながら減数分裂を完了した伸長精子細胞あるいは円形精子細胞を用いた顕微授精も行われており、十分な効率で産仔を得ることに成功しています。一方で、減数分裂完了前の一次精母細胞を用いた顕微授精は、1998年に小倉らにより報告されていますが、産仔率は4%と非常に低率であることが問題となっていました。その主な原因として、注入後に生じる染色体の分配異常が報告されています。一次精母細胞の顕微授精では、4nの一次精母細胞核を、4nの第一減数分裂中期(MI期)卵母細胞に顕微注入し、卵母細胞の中で減数分裂を2回進行させることでn(半数体)の雄性ゲノムを持った2倍体の受精卵を作出します。この注入後の減数分裂過程で、染色体の早期分離や異数性が高頻度に生じることが小倉らにより報告されていますが、その後20年以上改善されたという報告はありませんでした。
そこで、越後貫さんは、まず減数分裂過程での染色体の異常の改善を行いました。卵母細胞の減数分裂における染色体分配異常は細胞質サイズが大きいことによって引き起こされることが2017年に京極らによって報告されており、これにヒントを得て顕微注入を行う卵母細胞の細胞質サイズを小さくすることで、染色体分配異常頻度を下げる技術を開発しました。実際に細胞質サイズを小さくすることで、染色体の正常性が2%から21%と大きく改善したことが染色体標本による解析から明らかになっています。
次に、異常のほとんどが染色体の早期分離によって引き起こされていることが示唆されたため、ライブセルイメージングを用いてより詳細な解析を行っています。H2B-mCherryの蛍光強度により雌雄の染色体を識別し、動原体トラッキングにより染色体の動態を解析しています。その結果、一次精母細胞を注入した卵母細胞の89%が染色体分配異常を起こし、そのほとんどが雄性の染色体由来でした。また、大部分の異常は染色体標本で観察したものと同様に、染色体の早期分離でした。染色体分配異常の頻度は細胞質サイズを減らすことで46%と大幅に改善しています。
次に、細胞質サイズを減らすことで染色体分配異常が改善できたことから、実際に産仔率が改善できるかを検証しています。細胞質は胚発生に重要であることから、卵母細胞で減数分裂を起こさせた染色体を脱核した別のMII卵子に移したのち、培養し胚移植を行っています。その結果、通常サイズの卵母細胞だと1%であった産仔率が細胞質を減らすことで19%と大幅に改善されました。
最後に、越後貫さんは、一次精母細胞で精子形成を停止してしまい無精子症になる複数のマウス系統の一次精母細胞を用いて産仔の作出を試みました。その結果、2つの系統で正常な産仔を得ることに成功しています。
 本論文は、24年間あまり進展の無かった一次精母細胞を用いた顕微授精技術が一気に進展した重要な論文だと思います。僕が行った研究がこういった他の分野の研究に役に立つというのは一研究者としても非常に嬉しい経験でした。まだ、細胞質を減らすことで、なぜ早期分離が減るのかなど疑問も残っており、それらが分かれば細胞質を減らすことなく発生率を向上させることが可能になるかもしれないと思いました。まだまだポテンシャルを秘めている研究だと思うので、続報にも期待したいと思います。
 

(神戸大学 京極 博久)
 

質問
1.今回の実験はMI期の卵母細胞に顕微注入でしたが、GV期の卵母細胞にセンダイウイルスなどで融合してもいいのでしょうか?細胞融合ならテクニカル的にもハードルはかなり下がると思いました。
→おそらくGV期に精母細胞を注入したほうが、減数分裂のタイミングとしては雌と近づくと思われます。GV期に注入をしたこともありますが、卵子の生存率がぐっと下がりましたので、今回はMI期卵母細胞を用いています。その点では、膜融合は有効ですね。ただ、レセプターの問題か、精母細胞(精子細胞も)はセンダイウイルスでは融合しないようです。このため、最初の一次精母細胞の顕微授精の報告(Ogura et al. PNAS 1998)では電気融合法を用いています。

2.4nの一次精母細胞は細胞サイズで見分けていると思うのですが、その時期に特異的に発現する細胞マーカーみたいなものはあるのでしょうか?この実験を再現するのに素人でも判別できるようになればいいなと思いました。
→一次精母細胞は他の精細胞と比較して1番大きい細胞なので、一度覚えてしまえばまず間違えることはないかと思います。ただ、現段階ではパキテン期以降のステージでないと産仔が得られません。それを見極めるのが難しいです。例えば、H2AX, SYCP3など、パキテン期の指標になる抗体は色々あります。しかしながら実際顕微授精に用いるためには、細胞が生きたまま判定しなくてはならないので、悩ましいところです。

3.一次精母細胞の減数分裂は脱核した卵母細胞でも起こせるのでしょうか?また、2nになった精母細胞をMII卵に顕微注入しても胚発生は起こすのでしょうか?(第二極体を雌雄別々に出させる発想です。)
→除核したMI期卵母細胞に一次精母細胞注入を行ったことがありますが、極体の放出が起こりませんでした。後者のほうですが、MII卵子に精母細胞を顕微注入し活性化、2nになった雄性前核を新たなMII卵子に入れる方法でマウス産子獲得の報告もあります (Kimura et al., BOR 1998)。こちらの方法でも染色体の異常が報告されています。

4.臨床応用を考えると2段階移植をするために卵母細胞を使うのはハードルが高いと思うのですが、例えば、ESからダイレクトに作られる卵子様細胞(Hamazaki et al., Nature 2020)は細胞質がもともと小さく減数分裂は普通に起こすことが分かっているので、ドナー細胞質として利用して2nにした核を顕微注入するなどの手法が取れればいいのかなと思ったのですがどうでしょうか?
→すごくいいアイデアだと思います!ともかく、細胞質を減らして一次精母細胞を注入の労力がものすごい割には生存胚が少ない状況を何とかしたいです。

(回答:越後貫成美)
 

Birth of mice from meiotically arrested spermatocytes following biparental meiosis in halved oocytes.
Ogonuki N, Kyogoku H, Hino T, Osawa Y, Fujiwara Y, Inoue K, Kunieda T, Mizuno S, Tateno H, Sugiyama F, #Kitajima TS, #Ogura A.
EMBO Rep. 2022 May 19:e54992. doi: 10.15252/embr.202254992. Online ahead of print.