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伊川班の論文がJ Cell Biol.に掲載されました

2021.08.24

大阪大学・伊川班の論文がJCBに発表されました。First/co-correspond authorの森雅志さんは、現在、理研BDRの北島研究室に異動されています。
 ヒトを含めた多くの哺乳類では、受精時に、2回の減数分裂を完了した1倍体の精子(n)と第二減数分裂中期で減数分裂を停止した2倍体の卵子(2n)が出会うことで、一時的に3倍体の受精卵になることが知られています。卵子の染色体は受精直後に減数分裂を再開し1セットのゲノムを受精卵に1セットのゲノムを極体へと放出することで、受精卵は父型と母型のゲノムを1セットずつ持った2倍体になります。しかし、どのようにして確実に精子ゲノムを受精卵に残したまま、2倍体の受精卵になるのか?そのメカニズムは明らかになっていませんでした。伊川班は、この疑問に対して、ライブセルイメージングによる詳細なデータ解析を軸に明らかにしています。
 森さんが最初に行ったのは、受精時のゲノム動態を高解像度ライブイメージングで捉えるための手法の開発です。ライブイメージング技術を受精に用いるためには大きく2つの障壁があります。1つ目は精子の運動によって卵子が動いてしまうこと。2つ目はヒストンをほとんど持たない受精直後の精子核は、H2Bなどの一般的なタンパク質で標識できないことです。この障壁に対し、BSAを抜いた培地を用いてカバーガラスに卵子を張り付けた後にBSAを添加することで卵子をカバーガラスに固定し、近畿大学・山縣先生の発見したmCherry-tagged methyl CpG binding domain (MBD)を用いることで受精直後のゲノム動態を捉えることに成功しています。次にこのライブイメージングシステムで受精を観察したところ、2つの現象を発見しました。1つ目は、精子は卵子染色体の近傍には受精しないこと。2つ目は、精子核は受精後、卵子核に近づかないことです。この2つの事象について、それぞれより詳細な解析を行っています。
 なぜ精子は卵子の染色体の近くには受精しないのか?この疑問に答えるために森さんが着目したのは、精子との融合に必須の膜タンパク質であるJunoとCD9の局在です。これらのタンパク質は卵子の細胞膜上で3つの局在パターンを示し、卵子染色体から反対側の卵子半球エリアではドット上に膜表面を覆っており、卵子染色体側のエリアでは帯状にタンパク質密度の低いエリアができ、卵子染色体の周辺では局在が見られませんでした。すなわちJunoの局在で精子が融合できるエリアを限定しているということです。さらに、RanGTP活性により卵子染色体の周辺にJunoが局在できなくなっていることも明らかにされています。
 次に、なぜ受精後の精子核が卵子核に近づけないのか?という疑問に対して森さんが着目したのは、F-actinによるActin CapとFertilization Coneの形成です。どちらも呼び方は異なりますが、染色体がRanGTP活性により作り出すアクチンが重合した構造物です。この構造物同士は決して融合することがないために精子核と卵子核が近づくことなないことが明らかとなりました。実際にアクチンの重合阻害剤で処理すると、卵子および精子核が近づくことが確認されています。
 最後に、これらの機構をキャンセルするために、顕微授精(ICSI)を用いて精子核を卵子核のそばにインジェクションすると、多くの受精卵で精子核と卵子核が近づいてしまうことで極体に精子核が放出されてしまうことを観察しています。
 受精前は、卵子細胞膜により精子の融合場所が制限され、受精後はActin CapとFertilization Cone形成により精子核と卵子核を遠ざけるという2重の制御機構によって精子核と卵子核は混ざり合うことがなく、確実に2倍体の受精卵になることが、この論文では示されています。
 ライブイメージング、電顕、透明体弾性計測、モデリングなど多彩なアプローチで受精時のメカニズムを解明している点が面白く、実験結果も非常に分かりやすく個人的には大変楽しく読ましてもらいました。今後、受精の謎を解き明かすうえで、このライブイメージング技術も非常に役に立ってくるのではないかと思います。この論文でも少し述べられてはいましたが、個人的には、受精後の精子の尾部(特に長いげっ歯類)は、卵子の中に入っていくのか途中でちぎれるのかとか、もし入っていったらどの段階で吸収されていくのかなど、ライブで見られたら面白そうだなと思いました。今後の展開を楽しみにしています。

(神戸大学・京極博久)
 

RanGTP and the actin cytoskeleton keep paternal and maternal chromosomes apart during fertilization.
#Mori M, Yao T, Mishina T, Endoh H, Tanaka M, Yonezawa N, Shimamoto Y, Yonemura S, Yamagata K, Kitajima TS, #Ikawa M.
J Cell Biol. 2021 Oct 4;220(10):e202012001. doi: 10.1083/jcb.202012001. Epub 2021 Aug 23.