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塩見班の論文がEMBO J .に掲載されました

2021.08.02

つい一年ほど前に論文紹介をしたと思ったら、またまた塩見・岩崎先生のグループからpiRNAの続報が発表されました。なんの巡り合わせかこれで自分は3回目の紹介となります。
 ショウジョウバエのpiRNAの実験系は非常に洗練されており、これまでに多くの研究者が凌ぎを削りPiwi-piRNA複合体がどのように遺伝子発現を抑制するのかについて調べて来られました。特にショウジョウバエ卵巣の体細胞由来の培養細胞であるOSC細胞ではpiRNAが発現しており、遺伝子導入やノックダウンが可能であるという利点を持つことから、幅広く利用されています。今回は次世代シークエンサーの威力を駆使した極めて精緻な実験系を用いてpiRNAによるクロマチン制御機構が明らかとなりました。
 これまでの仕事で塩見先生はDmGTSF1がPiwiと核内で相互作用し、そのZinc finger domainを介してpiRNAの標的となるレトロトランスポゾンの発現を抑制していること、さらにPiwiとリンカーヒストンであるH1が相互作用し、PiwiはH1の密度を正に制御することでクロマチン凝集に働くことなどを見出していました。さらに昨年にはRNAの核外輸送タンパク質ファミリー分子であるNxf2が実はpiRNAによるトランスポゾンの転写抑制に関わっているところまで明らかにされています。
今回のEMBO Jに発表された論文のコアになっている発見はPiwiのノックダウンによる核内ラミンとpiRNA標的トランスポゾンとの距離の減少です。PiwiがH1ヒストンの密度を制御すると発表された時にはそんな一般的なヒストンがどう関わるのだろうかと当時から不思議に思っていましたが、Piwiのノックダウンにより免疫染色で核構造の変化が生じるほどまでだったとは驚きました。こんな大きな変化が出るとなるとH1ヒストンに繋がっていてもおかしくありません。論文ではこのプロセスを詳細に、例によって膨大な量の実験で解析されていますが、自分にとって一番印象深かったデータはPiwiがなくなるとPiwi-piRNAの標的トランスポゾンがある領域間のtopologically associating domain (TAD)間の距離が短くなり、核の構造が変わってしまうということです。TADはゲノムのオルガナイザーとして機能することが知られていますから、そうなると遺伝子発現に大きな影響が出る違いありません。そして前回発表されたNxf2がTAD間の距離の制御に関わっているというので、こんな所で効いていたのかと納得しました。
 最初に2013年に塩見先生の論文を紹介した時にはPiwiの核内パートナーは不明だったのを考えると全く隔世の感があります。いつもながら激しい競争の中で最新技術を駆使した論文を次々と発表されるのには感服していますが、特に今回の論文はシークエンスのデータ解析で核構造にここまで迫れるのかというのを堪能させてくれます。きっとまだまだ先があると思いますが、個人的には生殖細胞のpiRNAはどうなっているのだろうかと興味を持っています。今後の発展に期待しています。

(京都大学・篠原 隆司) 

Piwi-piRNA complexes induce stepwise changes in nuclear architecture at target loci.
#Iwasaki YW, *Sriswasdi S, *Kinugasa Y, Adachi J, Horikoshi Y, Shibuya A, Iwasaki W, Tashiro S, Tomonaga T, #Siomi H.
EMBO J. 2021 Aug 2;e108345. doi: 10.15252/embj.2021108345. Online ahead of print.