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篠原班の論文がGenes Dev.に掲載されました

2021.01.18

京都大学・篠原先生のグループからGenes & Developmentに論文が発表されました。
活性酸素種(ROS)は一般的に細胞毒性を示すと理解されています。しかし、以前に篠原先生らはROS産生に寄与するNADPH oxidase 1(Nox1)のノックアウト(KO)マウスを用いた研究から、ROSが精子幹細胞の自己複製に必要であるということを示しました。今回の論文では、そのNox1 KO マウスから培養下で維持することの可能な精子幹細胞であるGermline Stem (GS)細胞を樹立するところからストーリーが始まります。
意外にもNox1 KO GS細胞は通常の培養条件下では全く正常に増殖しました。しかし、ここから篠原先生らは観察事実とロジックをベースに仮説を立て、それを徹底的に検証していきます。様々な条件を試した結果、Nox1 KO GS細胞は酸素濃度1%という低酸素条件ではコントロールのGS細胞よりも増殖能が著しく低下するということを見出します。つまり低酸素下でのみNox1 KO GS細胞はKOマウスと一致する表現型を示しました。さらにTop1mt KO GS細胞と阻害剤を使った実験から、ミトコンドリアで産生されるROSよりもNox1依存的に産生されるROSが精子幹細胞の自己複製に重要であることがわかりました。ではNOX1-ROSの下流は何なのかという疑問がでてきます。そこで、低酸素下で発現誘導されるHIF1Aについて調べてみると、HIF1Aは低酸素下でMYC/MYCNの発現を促進しつつ細胞増殖能を維持することがわかりました。さらに興味深いことに、ROSはHIF1Aの発現を促進しました。Nox1 KO GS細胞においてもMYC/MYCNの発現低下が認められることから、低酸素下ではNOX1-ROS → HIF1A → MYC/MYCNという経路が動いていることが示唆されました。さらに、Nox1 KO、Hif1a KO、Myc/Mycn DKO GS細胞ではいずれにおいてもCDK阻害タンパクであるCDKN1Aの発現が増加しており、これが増殖能の低下の一因となっていました。重要なことに、低酸素下では野生型GS細胞の増殖能は低下するものの、CDKN1Aの発現を抑制することでそれがレスキューされることも明らかにしています。
以上の研究結果は、精子幹細胞におけるNox1-ROSの重要性を明確にするとともに、低酸素条件で培養したGS細胞がより生体内の精子幹細胞に近い状態にあることを示唆する結果となっており、精子幹細胞研究に大きなインパクトを与えるものと思われます。実際、精細管の酸素濃度は1.5%以下であることも報告されています。一方で、低酸素下ではGS細胞は通常よりもずっと遅く増殖するとともにハンドリングも煩雑になると思われます。篠原先生たちがどのように精子幹細胞・GS細胞を操っていくのか、今後の研究展開に注目です!

(九州大学・石内崇士)
 

An interplay of NOX1-derived ROS and oxygen determines the spermatogonial stem cell self-renewal efficiency under hypoxia.
Hiroko Morimoto, Takuya Yamamoto, Takehiro Miyazaki, Narumi Ogonuki, Atsuo Ogura, Takashi Tanaka, Mito Kanatsu-Shinohara, Chihiro Yabe-Nishimura, Hongliang Zhang, Yves Pommier, Andreas Trumpp, #Takashi Shinohara 
Genes Dev. 2021 Jan 14. doi: 10.1101/gad.339903.120. Online ahead of print.

http://genesdev.cshlp.org/content/early/2021/01/12/gad.339903.120.long