2020.11.10
九州大学・石内先生のグループの論文がNature Structural & Molecular Biologyに発表されました。
受精の前後に起こる大規模なクロマチンの構造変化は初期胚の全能性獲得に関与することが知られています。この変化でヒストンH3.3がクロマチンに取り込まれ、クロマチンを緩んだ構造にすることは分かっていましたが、ヒストンH3.3のゲノムワイドな分布や変化については不明でした。研究グループは微量クロマチン解析法を駆使し、マウス初期胚におけるヒストンH3.3の動態を明らかにしました。
まずultra-low-input native ChIP-seqを用いて、未受精卵 (MII)・受精卵 (PN5)・初期胚 (2細胞期, 4細胞期, 8細胞期) におけるH3.3の分布を調べました。2細胞期, 4細胞期, 8細胞期では、ES細胞をはじめとする様々な細胞と同じように転写開始点付近にヒストンH3.3が集積していました。研究グループはこれをcanonical (典型) パターンと呼んでいます。一方、驚いたことに未受精卵と受精卵では、ヒストンH3.3が転写活性の高い領域に集積しておらず、ゲノム全体に均等に分布していました。この分布をnon-canonical (非典型) パターンと名付けています。
ではnon-canonicalパターンからcanonicalパターンへの移行はどのような機構で起こるのでしょうか。まずは転写阻害剤あるいはDNA複製阻害剤を受精卵に注入しました。その結果、転写を阻害してもcanonicalパターンへの移行は起こりますが、DNA複製を阻害するとcanonicalパターンへの移行が起こらないことを突き止めました。そこで複製依存的にクロマチンに取り込まれるヒストンH3.1/H3.2に着目しました。CUT&RUNを用いてH3.1/H3.2の分布を調べたところH3.3の分布と負の相関を示すことが分かりました。さらに、H3.1/H3.2の取り込みに関わるCAF-1の機能を阻害したところ、canonicalパターンへの移行が起こらず初期胚が正常に発生しませんでした。これらの結果からCAF-1によるH3.1/H3.2の取り込みがH3.3の再分布や胚の発生に関わることが明らかになりました。
興味深いことにES細胞でCAF-1の機能を阻害したところ、受精卵で見られるようなヒストンH3.3のnon-canonicalパターンが誘導されました。また、Zscan4, Dux, Zfp352, MERVLなどminor zygotic gene activation (ZGA) で発現する遺伝子の転写が亢進しました。複製を阻害しnon-canonicalパターンを維持した2細胞期胚でも同じ遺伝子の転写が亢進しており、H3.3のnon-canonicalパターンはゲノム全体でクロマチンが緩んだ状態の構築に関わっていることが示唆されました。
Ultra-low-input native ChIP-seqやCUT&RUNなど最新の技術を用いて、H3.3のnon-canonicalパターンという新たな現象が見つかりました。解析がさらに進めば、non-canonicalパターンの構築・維持機構や生理的意義、ひいては全能性獲得機構の解明が期待されます。
(宮田治彦 (伊川班))
Reprogramming of the histone H3.3 landscape in the early mouse embryo.
#Takashi Ishiuchi, Shusaku Abe, Kimiko Inoue, Wan Kin Au Yeung, Yuka Miki, Atsuo Ogura & #Hiroyuki Sasaki. #:Correspondence
Nature structural & molecular biology. 2020 Nov 09; Online ahead of print.
https://www.nature.com/articles/s41594-020-00521-1