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伊川班の論文がAJHGに掲載されました

2020.07.06

今回は伊川先生のグループから、男性不妊症の治療につながる報告です。

近年、5組に1組にもおよぶ夫婦が不妊で悩んでいるといわれています。不妊は女性側の問題と考えられがちですが、約半数のケースで男性にも原因があるといわれています。
今回、男性不妊の大きな要因である精子無力症の一種、精子鞭毛形成不全(Multiple morphological abnormalities of the flagella: MMAF)に関わる遺伝子を探索するため、全エクソーム解析(Whole Exome Sequencing: WES)を行ったところ、精子の鞭毛においてダイニン外腕を構成するDNAH8をコードする遺伝子に3例の変異を見出しました。見出された変異は、劣性遺伝の形式を示し、2例は両親からともに変異を有したアレルを受け継いでミスセンス突然変異を起こし、もう1例では欠損によりフレームシフトを起こし終始コドンが現れ、発症したものと考えられます。この時、DNAH8ならびに共に働く別の外腕ダイニンであるDNAH17タンパクの精子鞭毛での発現はほとんどみられません。逆のパターンがすでに報告されていることから、外腕ダイニンはDNAH8とDNAH17で構成されていると考えられます。鞭毛の内部には軸糸(axoneme)とよばれる共通の構造があり、微小管が周辺に9本(A小管とB小管)、中央に2本(中心微小管)が収まった「9+2」構造が形成されますが、今回見出された患者の精子の鞭毛では、この構造にあらゆる異常が観察されました。さらに患者の精子の鞭毛は短化、環状化などの形態異常を示し、運動性が著しく低下していました。これらの異常に対するDNAH8の関わりをさらに解析するために、ゲノム編集技術によりタンパクコード領域全域の欠損(Knockout: KO)マウスを作製しています。KOマウスを用いて、鞭毛内部の「9+2」構造および精子の形態、さらに精細管内での精子の発生過程を観察したところ、ヒトと同様に鞭毛内部の構造異常や鞭毛の変形がみとめられた上に、精細管内での精子の発生が阻害され、不妊となることが示されました。そこで、KOマウスにおいて卵細胞質内精子注入(Intracytoplasmic sperm injection: ICSI)法で受精を試みたところ、変異アレルをヘテロに持つ産仔が得られ、上記の諸症状のレスキューが可能であることが示されました。驚いたことに、ICSIによる治療はヒトでもすでに行われ、無事に出産されたそうです。
今回作製されたKOマウスはコード領域を広く欠損させたものでしたが、先の2例の患者にみられたような1塩基置換によっても同様の表現型を示すのか、非常に興味深いところです。

(冨川順子(宮本班))


Am J Hum Genet. 2020 Jun 24;S0002-9297(20)30192-0.Online ahead of print.
Bi-allelic DNAH8 Variants Lead to Multiple Morphological Abnormalities of the Sperm Flagella and Primary Male Infertility.
§Liu C, §Miyata H, §Gao Y, §Sha Y, §Tang S, §Xu Z, Whitfield M, Patrat C, Wu H, Dulioust E, Tian S, Shimada K, Cong J, Noda T, Li H, Morohoshi A, Cazin C, Kherraf ZE, Arnoult C, Jin L, He X, Ray PF, Cao Y, Touré A, *Zhang F, *Ikawa M.§:equal contribution.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0002929720301920?via%3Dihub

大阪大学微生物病研究所プレスリリース