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宮本班の論文がCell Repに掲載されました

2020.07.02

近大・宮本先生のグループから、受精卵における核アクチンの機能についてのたいへん興味深い論文がCell Reportsに発表されました。
アクチンは最も含量の多いタンパク質であり、全タンパク質の5~10%を占めています。細胞の形態や運動性を制御する重要な細胞骨格因子ですが、近年は細胞質だけでなく核内に存在するアクチンの機能も研究が進められています。では受精卵にも核内Fアクチンは存在するのか?あったとしてそれは何らかの生理機能を果たしているのか?このシンプルな問いを投げかけるところから著者らの研究は始まります。
まずは局在観察からです。ファロイジンで受精卵を染色すると前核の核質の中に、うっすらですが長いFアクチン繊維が認められます。一方でエクスポーチン6を発現させるとアクチンが核外へ排出されFアクチン繊維は消えます。確かに受精卵には核内Fアクチンが存在しています。さらに核アクチンchromobody(抗アクチン抗体フラグメント)-GFPというプローブを導入し経時的ダイナミクスを観察したところ、受精後に現れた核内Fアクチンは有糸分裂直前まで10時間以上も存在し続けることがわかりました。導入部から疑念無く読み手を導く綺麗なデータです。
では核内Fアクチンがあるのはいいとしてそれは生理的に必要なものなのか?重合しないアクチンR62D変異体やエクスポーチン6を受精卵に導入すると発生率も移植胚の産子数も有意に低下することから、核内Fアクチンが胚発生を制御するという生理機能を押さえました。
研究グループは次にFアクチンの分子機能に迫ります。RNA-seq解析の結果から核内FアクチンとDNA損傷の関係に注目したところ、特に雌性前核においてFアクチンとgH2AX foci(DNA二本鎖切断部位)が近接していることを見出しました。そこでエクスポーチン6を発現させ核内Fアクチン形成を抑制するとgH2AX fociのシグナル強度が有意に増強したことから、核内FアクチンがDNA修復に寄与しているという可能性が浮かび上がりました。この可能性を追求するためアクチンR62D変異体とエクスポーチン6を同時導入しFアクチン形成をより強力に阻害したところ、M期の細胞の割合が減り有糸分裂の遅延が観察されました。このとき、受精卵でDNA損傷増加に伴い活性化することが知られるチェックポイントキナーゼChk1の阻害剤を添加すると遅延がレスキューされたことから、核内FアクチンがDNA修復に関与していることが示されました。ここまでですでに核内Fアクチンの作用機序までが明らかにされてしまいました。
研究グループはさらに、青色光でアクチン脱重合因子コフィリンをオンデマンドに操作(核外排出)出来るような系(opto-coffilin)を構築し、Fアクチンのより詳細な動態を観察します。この系で光を照射しコフィリンを核外へ排出させると、照射後90分という短時間で核内Fアクチン形成の有意な促進が認められました。ところが核膜消失の時期になると前核相当部分にopto-coffilinが再び認められ、これにタイミングを合わせてFアクチンも消失してしまいます。この結果はFアクチンがその形成だけでなくディスアセンブリによっても重要な役割を担っている可能性が示唆しています。そこで重合促進型のアクチンG15S変異体を導入しFアクチンのディスアセンブリを阻害させました。その結果前核内でのゲノムDNAの局在が大きく変化し、胚発生も2細胞期で停止してしまいました。これらの結果から核内Fアクチンは重合だけでなく、適切なタイミングで脱重合することもまた必要であることがわかりました。
以上の結果から研究グループは、受精卵前核内にFアクチンが存在すること、さらに時間空間的なダイナミックな核内Fアクチンアセンブリ・ディスアセンブリが少なくともDNA損傷修復を介して胚発生を制御していることを明確に示しました。この研究では核内アクチンの動態を観察・制御するために全般的に非常に工夫の凝らされた実験系が組まれており、その技術力の高さこそが今回の発見につながっています。研究グループはまた核内Fアクチンが核の体積の制御にもかかわっていることも見出しており、核の大きさと機能の関係というファンダメンタルな問題も浮かびあがってきます。細胞の形態と機能が密接に結びついていることを考えるとアクチンによる核の形態制御がどのような生理機能につながるのかも大いに興味が持たれますが、このような問題も宮本先生たちの高い技術力をもってすれば解明される日はそう遠くはないに違いありません。
(伊川研・淨住大慈)

Cell Rep. 2020 Jun 30;31(13):107824. 
Zygotic Nuclear F-Actin Safeguards Embryonic Development
Okuno T, Li WY, Hatano Y, Takasu A, Sakamoto Y, Yamamoto M, Ikeda Z, Shindo T, Plessner M, Morita K, Matsumoto K, Yamagata K, Grosse R, Miyamoto K.
 

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124720308056