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伊川班の論文がPNASに掲載されました

2020.05.08

先日発表された伊川研藤原さんのFIMPに続き、伊川先生のグループから新たに受精時の膜融合に関与する遺伝子の論文がPNAS誌に掲載されました。筆頭著者は助教の野田さんと特任助教のLuさんで、ベイラー医科大学のMartin M. Matzuk 博士らとの共同研究です。
精子と卵が受精するためには多くの過程が必要となります。雌性生殖路内に雄から射出された精子は、子宮、卵管を通って、卵が排卵されている卵菅膨大部に到達します。その後、精子は先体反応を起こし、卵透明帯を通過した後、ようやく卵細胞膜と融合し受精が起こります。精子-卵の融合は受精現象の最終段階にあたります。
これまでに精子-卵の融合に関わる因子として、精子ではIZUMO1、FIMP(それぞれ伊川研前身の岡部研と伊川研による研究成果)、卵ではCD9とJUNOが報告されています。しかし、これだけでは配偶子融合の全てを説明することができず、新たな役者の登場が待ち望まれていました。今回の論文では、精巣内生殖細胞の遺伝子発現パターンより3遺伝子(Sof1 [Sperm Oocyte Fusion required 1:本論文により命名]、Tmem95、Spaca6)を選別し、ゲノム編集技術により遺伝子欠損(ノックアウト;KO)マウスを作製しています。(このように書くと実に簡単に聞こえますが、実際には雄生殖巣で発現する250遺伝子以上をKOしています。)
KO雌マウスの妊孕性はいずれも正常でした。一方、精子の形態・運動性は正常であるにも関わらず、各遺伝子のKO雄マウスと交配した雌マウスからは全く子供が誕生しませんでした。体外受精を行ったところ、KO精子は卵透明帯を通過できるものの、透明帯内部に留まったまま卵と融合できないため、受精できませんでした。KO精子におけるIZUMO1の局在や発現量に変化はなく、また遺伝子導入でレスキューできることから、SOF1、TMEM95、およびSPACA6はIZUMO1とは別の機構や段階で融合に機能していることが示唆されました。
しかしながら、培養細胞にこれらの3遺伝子+IZUMO1+FIMPを過剰発現させても卵との融合を再現することはできませんでした。すなわち、役者は未だ全部がそろっていないということで、配偶子融合という現象ひとつをとっても生命の機構はそれほど簡単ではないことがわかります。今後も雄性生殖研究で世界のトップを走り続ける伊川研の研究成果に期待を寄せたいと思います。
(井上 貴美子(小倉班))

PNAS 2020 in press.
Sperm proteins SOF1, TMEM95, and SPACA6 are required for sperm-oocyte fusion in mice.
Noda T, Lu Y, Fujihara Y, Oura S, Koyano T, Kobayashi S, Matzuk MM,  *Ikawa M.

大阪大学微生物病研究所プレスリリース