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小倉班の論文がPNASに掲載されました

2019.10.01

領域代表の小倉班からPNAS論文が出ました。哺乳類の胎児の発育は、胎盤を介した母体からの栄養補給やガス・老廃物などの交換により支えられています。そのため胎盤の形成・機能不全は胎児の子宮内発育に直結する大きな問題です。しかしながら胎盤形成や機能解析については分子生物学的なアプローチが難しく、そのメカニズムについては未だ、未知の部分が多く残されています。今回、的場さん達は、胎盤で高発現し、ナトリウム依存的に比較的小型の中性アミノ酸を輸送するシステムAアミノ酸トランスポーターとして、Slc38a1/SNAT1, Slc38a2/SNAT1, Slc38a4/SNAT4に着目しました(それぞれ遺伝子/タンパク質)。
彼らは、各遺伝子内に3箇所のgRNAを設計して切断することで効率よく遺伝子破壊できるTriple-target CRISPR screenというアプローチにより、ゲノム編集した受精卵から発生する胎児・胎盤の状態で表現型を見ています。その結果、Slc38a4をKOした場合に、胎盤・胎児ともにコントロール群の7割程度に減少し、生後の発育不全も併発することを認めました。通常の受精卵ゲノム編集ではモザイクも少なくないので系統化前の解析には不安が残りますが、Triple-target CRISPRならKO効率が高い利点を上手く活用されています。また出産前に表現型を見てしまえるので、胎盤機能解析には最適で、非常に理に適った使い方ですね!流石です。
Slc38a4は父性発現するインプリント遺伝子ですが、勿論、父方アレルがKOされるだけで表現型が出ることは抑えています。さらに胎児血漿のメタボローム解析を行い、Slc38a4のKO胎児では、SNAT4の標的であるグルタミンなどを含む多くのアミノ酸の血中濃度、SNAT4に特徴的なヒスチジンなどのカチオン性アミノ酸濃度が大幅に低下することを確認しています。これらのことから、Slc38a4にコードされるSNAT4は母体から胎児へのアミノ酸の供給において重要な機能を有すると結論されています。胎盤にはファミリーで発現している遺伝子も多く、これまでは手を付けにくい感がありましたが、ゲノム編集を上手く使うことで、研究が大きく広がります。
実は、このSlc38a4はクローン胚でインプリント異常を示す遺伝子として的場さん達が着目してきた遺伝子の一つです。今後は、このノックアウトマウスを使ってクローンでみられる胎盤形成異常の原因追及が進むはずなので、全能性の理解にまた一歩近づくことが期待できます。
(伊川正人)

PNAS 2019 Oct 15;116(42):21047-21053. 
Paternal knockout of Slc38a4/SNAT4 causes placental hypoplasia associated with intrauterine growth restriction in mice.
Matoba S, Nakamuta S, Miura K, Hirose M, Shiura H, Kohda T, Nakamuta N, and Ogura A.

https://www.pnas.org/content/early/2019/09/25/1907884116
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